壽々の雑記帳

観劇のコメントや日々の出来事・時事問題などについて綴ります。

父と子、兄と弟の確執と葛藤を描いた秀作。宙組公演『ZORRO THE MUSICAL』.

今日は、壽々(じゅじゅ)です。


かつて、ヒーロー物といえば、ヒーロー

が悪い奴をやっつけるという単純な勧善

懲悪の物語がほとんどでした。


『ゾロ』の作品も同様で、ウォルトディ

ズニーのテレビドラマ『怪傑ゾロ』は、

ロサンゼルス地区のスペイン司政長官モ

ナステリオが悪政をしき、その為に住民

が苦しんでいること知ったディエゴが、

住民を救うために、覆面で顔を隠し、悪

党であるスペイン司政長官モナステリオ

と戦うというお話でした。


ところが、近年、ヴィラン(悪役、敵役)

にも、ヴィランとなった事情や理由があ

るのではないか、という作品が作られる

ようになってきました。


この宙組公演『ZORRO THE MUSICAL』

も、そのような作品の一つと考えてもい

いのではないかと思います。


そのために、敵役を赤の他人の司政長官

ではなく、ディエゴの兄のラモンにした

ということでしょう。


話は、それこそ10年前に遡ります。


少年時代のディエゴは、幼馴染のルイサ

に、街のヒーローを夢見ていることを話

します。


まだ、非力なディエゴをラモンは、軟弱

者呼ばわりし、自分が父・アレハンドロ

の後を継ぎ、市長になるのだと言います。


ところが、アレハンドロが後継者に指名

したのは、人に愛される素質を持つディ

エゴで、ラモンには強さがあるから、将

軍になることを勧めます。


ラモンは、父親に対して、「市長のディ

エゴの下で働けというのか」と言って怒

ります。


自分が父親から愛されていないと思いこ

んだラモンは、父親の「人に愛されよう

と思うなら、まず、人を愛することだ」

という言葉を無視し、「僕は愛されなく

てもいい」と捨て台詞を残して立ち去っ

ていきます。


そして、ラモンは、自分が秘かに想いを

寄せていたルイサがディエゴと仲良くし

ているのを目撃し、茫然とします。


誰にも愛されていないと思い込んだラモ

ンの心は、次第にダークサイドに堕ちて

いき、力こそ正義、(自分が作り上げた)

秩序を守ることこそが、自分に課せられ

た使命だと信じ込み、父であるアレハン

ドロを地下牢に幽閉し、自分が市長の座

に就き、民衆に対して圧政を行います。


それを知って、スペインから帰国したデ

ィエゴは、普段は、腑抜けなディエゴを

ラモンの前で演じながらも、人々の危機

には、覆面を付けた謎のヒーロー「ゾロ」

として、ラモンの前に立ち塞がります。


そして、最後に正体を明かして、ラモン

と一騎打ちをするディエゴ。


兄であるラモンに止めを刺すことに逡巡

しますが、ラモンがルイサに銃を向けた

ため、ラモンを殺してしまいます。


敵役を主人公のディエゴの兄であるラモ

ンとしたことで、単なる勧善懲悪の物語

ではなく、ラモンが何故、道を踏み外し

たのかが説明され、兄と戦うことを余儀

なくされたディエゴの心の葛藤が描かれ、

物語に厚みが出ていることが分かります。