妻が宝塚ファンで……。

ミュージカル観劇や日々の時事問題などについて綴ります。

ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』は、悲しい愛の物語

今晩は、壽々(じゅじゅ)です。


今日は、9月16日に観劇したミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』について、
レポートします。


劇  場:日生劇場(日生劇場は久しぶり)
開演時間:14時
上演時間:2時間25分(休憩20分含む)


上演時間実質2時間5分は、ミュージカルとしては短い方ですが、
あまり短さは感じませんでした。それだけ内容が凝縮されていた
ように思います。


主な登場人物と配役(カッコ内)は、以下のとおりです。


ジャック(加藤和樹)
 「切り裂きジャック」と呼ばれる娼婦ばかりを狙うロンドンの猟奇的連続殺人鬼。
 7年前、警察によって拳銃で撃たれて川に落ち、死んだはずだが……。


アンダーソン(松下優也)
 ロンドンの刑事で切り裂きジャックを追っている。コカイン中毒で、コカインを
 買う金のために新聞記者モンローと独占スクープ提供の取引をする。


ダニエル(木村達成)
 アメリカから臓器移植の研究のために、ロンドンにやってきた外科医。
 新鮮な臓器の提供を受けるために、ジャックと取引しようとする。
 ジャックとの仲介者である娼婦のグロリアと恋に落ち、アメリカへ一緒に
 行こうと誘う。


モンロー(田代万里生)
 ロンドンタイムズ紙の新聞記者。切り裂きジャック事件の特ダネを狙って、
 アンダーソン刑事に近づく。特ダネ=金のためなら何でもする男。


グロリア(May'n)
  ロンドンの娼婦街の娼婦。ダニエルとジャックの仲介役を務めるが、
  ダニエルとの恋に落ちてしまう。
  ダニエルと一緒にアメリカに行くことを決意するが、ジャックを裏切った
  ことによって、ジャックに家に火を放たれて焼死する。


ポリー(エリアンナ)
 アンダーソンのかつての恋人。
 アンダーソンからジャック逮捕の囮になることを依頼され、承諾する。
 しかし、手違いにより、ポリーは無残にもジャックによって殺されてしまう。


【あらすじ】(公演プログラムより)


 1888年、ロンドン。


 刑事のアンダーソンは、娼婦だけを狙う連続殺人事件の犯人を追っていた。
 7年前に死んだはずの殺人鬼ジャックの再来ではないかと、街中が噂している。
 残忍な犯行で解決の糸口も見えないため、警察はマスコミを排除し非公開で
 捜査を進めようとするが、ロンドンタイムズ紙の記者モンローは、特ダネの
 独占スクープを狙って、 アンダーソンに近づいてくる。そして麻薬中毒で金が
 必要なアンダーソンの弱みにつけこみ、情報提供の取引に応じさせてしまう。


 さらに起きた新たな殺人現場で、アンダーソンの前に「犯人を知っている」と
 告白する男が現れる。「そいつの名前はジャックだ」と。この男は、7年ぶりに
 アメリカからロンドンにやってきた外科医ダニエル。ロンドンにいた 7年前、
 ダニエルと元娼婦のグロリアは、ジャックと出会っていたのだ。


 犯行が重ねられ、事件はますます混迷を極めていく。 アンダーソンはダニエルの
 供述に基づいておとり捜査を計画するが、ロンドンタイムズ紙は “ジャック・ザ・
 リッパー”=「切り裂きジャック」の殺人予告記事の号外を出してしまった。
 アンダーソンと彼のかつての恋人だったポリーまでもが、事件に巻き込まれて
 しまう。


 7年の時を経て、なぜジャックは再び現れたのか。
 果たして、その正体とは。
   そして、彼の本当の目的とはー。


 【感想】
 この作品は、評価が分かれるように思います。


 この作品を切り裂きジャックの正体を暴く物語だと思って観に行った人(私も
 そうです)、この作品はそういう作品ではありません。
 (本物の)切り裂きジャックは、正体不明、その殺人の動機も不明なままです。


 主人公のダニエルは、第1幕では怪我をした婦人を助ける心優しい外科医として
 描かれますが、第2幕では愛するグロリアを救うためなら墓荒らしでもなんでも
 する狂気を帯びた人物として描かれます。
 主人公ダニエルが取った行動に共感できない。(共感できたらヤバいです)


 ほかの男達もヤバい人間ばかりです。連続殺人鬼とアヘン中毒の刑事と特ダネに
 妄執する新聞記者。


 一方の女性二人は対照的に好感の持てる人間として描かれています。


 ダニエルと恋に落ち、一緒にアメリカへ行けることを素直に喜ぶグロリア。
 しかし、幸せな時間は一瞬でした。
 ジャックを裏切ったためにジャックによって部屋に火をつけられ、大火傷を
 負います。
 7年後にダニエルと再会しますが、その再会がダニエルを狂気に陥らせたことを
 知ります。
 ダニエルの凶行を知ったグロリアは、その凶行を止めるために自分の頭を銃で
 撃って自殺します。


 純粋な心を持つポリー。その純真さには心を打たれます。
 かつての恋人アンダーソンの頼みに内容も聞かず承諾します。
 アンダーソンの差し出した赤いバラを嬉しそうに髪に挿すポリー。
 しかし、それは切り裂きジャックを捕まえるための囮の目印。
 工場から降る灰を雪が降っていると無邪気に話します。


 この二人の最期がこの作品の悲劇性を際立たせています。


 今回、ジャックはWキャストでしたが、加藤和樹さんのジャックを選びました。
 冷酷無比な連続殺人鬼なのに何か紳士的な品の良さもあるジャック。
 加藤和樹さん演じるジャックが登場するだけで場面に緊張感が走ります。
 私の期待に見事に応えてくれました。


 もう一人、田代万里生さん。
 『マタ・ハリ』ではラドゥー大佐を演じていましたが、今度のモンロー役で
 さらに役柄の幅を拡げたように思います。
 田代万里生さんは、何の役だっけ?(頭に入っていません)
 (公演プログラムを見て)えっ、モンロー?そんな役できるのか?
 そう思って観ていましたが、あの虫酸が走るような役を素晴らしい演技で
 魅せてくれました。


 物語も曲も良かったと思いますが、何より出演者の演技力と歌唱力が素晴らしい。
 それだけでも観に行く価値ありです。


 この『ジャック・ザ・リッパー』。チェコ・プラハで制作され、韓国で大ヒット
 したミュージカルですが、日本版もさらにブラッシュアップされて、再演される
 ことを期待しています。