妻が宝塚ファンで……。

ミュージカル観劇や日々の時事問題などについて綴ります。

宝塚歌劇団に、「安全配慮義務」はあるのか?

今日は、壽々(じゅじゅ)です。


まず、「安全配慮義務」とは、「従業員
が安全かつ健康に労働できるようにする
ため、企業が従業員の安全に配慮する義
務」とされています。


その法律上の根拠については、労働契約
法第5条に、このように書かれています。
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第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働
者がその生命、身体等の安全を確保しつ
つ労働することができるよう、必要な配
慮をするものとする。
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また、労働契約法第1条には、このよう
に書かれています。
==================
第1条 この法律は、労働者及び使用者の
自主的な交渉の下で、労働契約が合意に
より成立し、又は変更されるという合意
の原則その他労働契約に関する基本的事
項を定めることにより、合理的な労働条
件の決定又は変更が円滑に行われるよう
にすることを通じて、労働者の保護を図
りつつ、個別の労働関係の安定に資する
ことを目的とする。
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「労働契約」と書かれているので、雇用
関係にない「タレント契約(請負契約)」
の場合には、この法律は適用されません。


したがって、研6から「タレント契約(請
負契約)」になる宝塚歌劇団の劇団員は、
そのほとんどに対して、宝塚歌劇団は、
「安全配慮義務」を負わないことになり、
自分の身は自分で守れ、ということにな
りそうです。
※なお、前回の記事で研7と書いたのは、
 研6の間違いです。


ただ、裁判例としては、歌謡ショーにゲ
スト出演中セリに転落受傷したタレント
について、東京地方裁判所が
==================
「本件のような舞台におけるショー出演
のための出演契約の中核をなすのは、出
演者の『芸』の提供と出演に対する対価
の支払いであることはもちろんであるが、
そこで提供される『芸』は、代替性のあ
る単なる労務の提供ではなく、まさに個
性と経験を備えた当該芸能人その人の安
全を離れて存在し得ないかけがえのない
ものであり、舞台上の演技には舞台装置
あるいは観客との関係から種々の危険を
伴うことがあることに鑑みれば、このよ
うな出演契約においては、興業主側が右
のように出演(芸の提供)を中核とする
時間を「買取る」反面において、興行主
側は、その『芸』を担う出演者の生命、
身体の安全に配慮すべきことが出演契約
に附随する信義則上の義務として、契約
の当然の内容になつている
ものと解すべ
きである。

==================
と判示しています。


東京地方裁判所の判決であり、また、上
記の事例の場合の判決であるので、この
判決が宝塚歌劇団の今回の事例にそのま
ま当てはまるのか、については疑問もあ
ります。


また、自殺した私立中学の男子生徒の両
親が私立学校を訴えた事案では、さいた
ま地方裁判所が
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「学校は、在学契約に基づく付随的義務
として、信義則上、親権者等に対し、生
徒の自殺が学校生活に起因するのかどう
かを解明可能な程度に適時に事実関係の
調査をし、それを報告する義務を負うと
いうべきである。
==================
と判示しています。


どちらかというと、こちらの方が今回の
事例に近いと思うのですが、学校のいじ
め問題の判決であり、これが、タレント、
芸能人(宝塚歌劇団の劇団生)に、当て
はまるのか、というのも疑問があります。


ということで、タレント契約である研6
以上の宝塚歌劇団の劇団生には、労働法
上の「安全配慮義務」は負いませんが、
裁判を起こせば、認められる可能性があ
る、ということになります。


したがって、最初から、宝塚歌劇団には
「安全配慮義務」があるから、今回の件
について、劇団の「安全配慮義務」が問
われるというのは、少なくとも、法律上
はおかしいということになります。


なお、上記の判決文の中に出て来る「信
義則」とは、「信義則(信義誠実の原則)
とは、 社会の一員として、互いに相手方
の信頼を裏切らないように、誠意をもっ
て行動しなければならないという原則」
とされており、民法第1条第2項にその根
拠規定があります。