妻が宝塚ファンで……。

ミュージカル観劇や日々の時事問題などについて綴ります。

幻の名作、朝海ひかるさん出演の『M.バタフライ』観劇しました。

今日は、壽々(じゅじゅ)です。


昨日は、『M.バタフライ』を観劇にウィ
ンク愛知大ホールへ行ってきました。


福岡公演が公演関係者に新型コロナの感
染者が出て、全公演中止になった『M.バ
タフライ』ですが、愛知公演は無事観劇
することができました。


公演解説です。


たった一度だけ日本で上演された幻の名
作が、いま蘇る


驚愕の実話を元にディヴィット・ヘンリ
ー・ファンが書き上げ、1988年トニー賞
最優秀演劇賞を受賞した『M.バタフライ』。
世界30か国以上で上演され、日本では1990
年劇団四季での上演以来32年ぶりの上演
となる。徹底した役の掘り下げと確かな
演技力が評価され、昨年紫綬褒章を受章
した内野聖陽が主演。硬派な作品を得意
とし、生々しい人間ドラマを描き出す手
腕に長けた気鋭の演出家・日澤雄介が幻
の名作に挑む。


ストーリーです。


1980年代のフランス、パリの刑務所。
国家機密の漏洩により投獄された元フラ
ンス外交官、ルネ・ガリマールだが世界
は今、彼の話題で持ち切りになっている。
それは彼が“完璧な女性(実は男)と出会
い、愛人関係になった”から。“男”と気づ
かなかったのか、と嘲笑の的になってい
る。
毎晩、独房で“完璧な女性=私のバタフラ
イ”との物語を繰り返し、彼女が自分の腕
の中に戻ってくる新たな結末を探し続け
るガリマール。
そしてオペラ『蝶々夫人』の世界とを重
ね合わせるように、彼は己の過去を語り
始めるー。


1960年代の中国・北京。
フランス大使館に赴任したガリマールは、
パーティーでオペラ『蝶々夫人』を披露
した京劇女優ソン・リリンと出会い、彼
女の東洋人らしい慎み深さと奥ゆかしい
色香に魅了されていく。その一方で妻の
ヘルガとの溝は深まっていく。
夢に現れた元同級生のマルクは「ソンは
お前に降参せずにいられない」と唆す。
さらに上司のトゥーロンに副領事に抜擢
され、自信を得たガリマールはソンのア
パートに赴き、二人は結ばれた。
だが、ソンは中国共産党員チン配下のス
パイだった。チンはソンにガリマールを
利用して、ベトナム戦争でのアメリカの
動向を探るように命じる。
パーティーで知り合った女学生のルネと
不倫関係を持ったガリマールだったが、
彼女では満たされない衝動を感じ、向か
ったソンのアパート。そこで告げられた
のはー。


キャスト紹介です。


本作の主人公、ルネ・ガリマールを演じ
るのは、徹底した役の掘り下げに裏付け
された演技力と圧倒的な存在感を放つ、
内野聖陽。物語では、投獄されたルネが
観客に、自身の「正しさ」を『蝶々夫人』
と対比させながら説いていくうちに、や
がてその全貌が浮かび上がります。エネ
ルギッシュでありながら細やかに丹念に
人物を表現する内野の、まさに真骨頂が
発揮されるでしょう。そして、毛沢東の
スパイでありながら、京劇女優に身分を
偽るソン・リリンは、岡本圭人が務めま
す。アメリカ最古の名門演劇学校である
アメリカン・アカデミー・オブ・ドラマ
ティック・アーツへ留学、帰国後に主演
した舞台「Le Fils 息子」では、思春期の
絶望と不安に苛まれながら必死でもがく
青年を見事に演じ切り、称賛されました。
この度演じるソンは、性別も身分も、そ
して京劇女優の立ち振る舞いも表現する
ことが求められ、また新たな挑戦となり
ます。
そして、ルネの妻ヘルガは、凛とした佇
まいが魅力の朝海ひかる、ソンの監視役
の共産党員、チェン同志に占部房子、ガ
リマールの浮気相手役ルネに藤谷理子、
ルネの駐在中の上司、トゥーロン役に三
上市朗、ルネの幼馴染、マルクにみのす
けといった、実力派が揃います。
※「ルネ」が主人公とその浮気相手の女
 学生と二人出てくるので、ちょっとや
 やこしいです。


コメントです。


まさしく「幻の名作」です。
ただ、万人受けする作品ではないと思い
ます。
私も朝海ひかるさんが出演しているのと、
愛知公演だから観に行ったので、そうで
なければ、観劇していないと思います。
しかし、やはり「名作」だと思います。


そもそも、ポスター画像の内野聖陽さん
の無精ひげはなんとかならなかったもの
でしょうか?あの無精ひげで出演するの
かと思っていたら、そうではなかったの
で、あのポスター画像は観る気を削いで
しまいそうで、やめた方が良かったので
は……。


ただ、愛知公演は、土日の3公演だけと
いうこともあるとは思いますが、結構、
席が埋まっていました。
(本日、大千秋楽です)


なお、タイトルの『M.バタフライ』の
「M.」はフランス語で「Monsleur(ムッ
シュ)」の省略形で、英語で言うと、
「Mr,(ミスター)」になります。
つまり、英語にすると「Mr.バタフライ」
ということになります。


また、この作品は、上の解説に書かれて
いるように実話に基づくものであり、公
演プログラムにその話、「シー・ペイ・
プー事件」載っているのですが、「事実
は小説より奇なり」の典型例みたいな話
です。


開演すると、舞台中央の高い所にスポッ
トライトを浴びて京劇女優の格好をした
ソン・リリン(岡本圭人さん)の姿が。
舞台下手には、国家機密情報漏洩の罪に
より投獄されたルネ・ガリマール(内野
聖陽さん)がいて、ソン・リリンに手を
差し伸べて「私のバタフライ、私のバタ
フライ」と叫んでいるシーンから始まり
ます。


ソン・リリンの姿が消えると、ルネが観
客に向かって、刑務所の生活について語
り始めます。といった具合に、物語は主
にルネが、時々ソンが観客に語り掛ける
という形で進行します。
これによって、演者と観客との間に見え
ない繋がりが生まれる演出になっていま
す。


そして、物語は、ルネがソンと出会った
時に遡ります。
オペラ『蝶々夫人』との対比で語られて
いく物語。
オペラ『蝶々夫人』では,アメリカ海軍士
官ピンカートンが日本の蝶々夫人を裏切
りますが、この『M.バタフライ』では、
立場が逆転。フランス人外交官のルネが
毛沢東政府のスパイのソンが仕掛けた罠
に嵌まって機密情報をソンに漏らします。


内野聖陽さんが演じるルネは、本当に“ダ
メ男”でよく外交官が務まるな、と思うの
ですが、仕事はできるのでしょうね(後
で左遷させられてしまいますが)。
男として劣等感を持ち、人間関係が上手
く構築できないくせに、「東洋人・女性」
にだけは、西洋人としての優越感を持っ
ています。
だからこそ、彼の理想とする“完璧な女性”
であるソンの仕掛けた罠にまんまと嵌ま
ってしまいます。


一方のソンは、京劇で鍛えた演技力を以
って本当は男なのに、女としてルネに近
づき、ルネを自分の虜にしてしまうソン
(岡本圭人さん)の演技は、鬼気迫るも
のがあります。
ルネから裸になってくれと頼まれたソン
は一か八かの賭けに打って出ます。
そして、見事にルネを屈服させるのです。
その後のソンのベッドでのセリフ「来て
愛しい人」は、その勝利の言葉でしょう
か。(←これがストーリーの告げられた
言葉です)
また、ソンの京劇女優としての剣舞の場
面も見応えがありました。
西洋人男性の東洋人女性に対する優越感
と幻想。
そして、中国における同性愛に対する禁
忌。
この作品は、人種や男女の差別や真実の
愛といった様々な問題について、観客に
問い掛けます。


ソンに抱いた幻想が破れた時、ルネは、
蝶々夫人に扮し、「私は、ルネ・ガリマ
ール、またの名をバタフライ」と叫んで
短剣を胸に突き立てるのです。
しかし、これもルネが見た幻想でしょう。
大体、刑務所の独房でそんなことができ
るはずもないし……。


舞台は、暗転してオペラ『蝶々夫人』の
歌が流れます。
そして、再び照明に照らされると、舞台
下手には、相変わらず刑務所の独房にい
るルネの姿が、上手の高い所には、先に
赦免され、男の姿に戻ってネクタイを締
め、アルマーニのスーツ(だそうです)
を着てタバコを吸うソンの姿があります。


そして、静かに幕が(幕はありませんが)
下ります。


ルネは、ソンが男であることに気づいて
いたのか?気づいていて愛したのか?
裁判でもそのことが問われますが、それ
は謎として残されます。


素晴らしい舞台を観ることができました。