妻が宝塚ファンで……。

ミュージカル観劇や日々の時事問題などについて綴ります。

閲覧注意!!原作に書かれている遺書の内容ー『双曲線上のカルテ』。

今晩は、壽々(じゅじゅ)です。


和希そらさん主演の雪組公演『双曲線上
のカルテ』の原作は、渡辺淳一氏の『無
影燈』です。


集英社文庫から文庫版が出ており、帯に
和希そらさんの写真と共に『双曲線上の
カルテ』の公演案内が載っています。


以前の記事(↓)で「原作は読まないで」
と書きましたが、帯につられて買ってし
まった人、そして、買った以上、読んで
しまった人、これから読もうとしている
人も多いかと思います。


ただ、先の記事でも書いたように、この
原作を読んだ印象そのままで、『双曲線
上のカルテ』を観る事だけは止めて欲し
いと思います。


『双曲線上のカルテ』は、原作の『無影
燈』のテーマをベースにしながら、かな
り、内容の異なる作品になっています。


特に、顕著なのは、遺書を含めたラスト
の部分です。


原作の遺書の部分は、文庫版で4ページ
ほどの長いものです。


ここに直江(=フェルナンド)の考え方
が色濃く表れているのですが、さすがに、
宝塚作品はほとんどカットしています。


また、ラストの向日葵が一面に咲いてい
る場面もホスピスの場面も原作にはあり
ません。


原作では、倫子(=モニカ)が自殺した
直江(=フェルナンド)を手術室の無影
燈の下で待ち続ける場面で終わります。


これはこれで、余韻の残る終わり方です
が、救いがない終わり方とも言えます。


さて、問題の遺書の内容です。
全部書くと膨大な量になるので抜粋しま
す。
なお、倫子は直江に妊娠したことを打ち
明けて、直江はそのことを遺書を書く前
に知っています。
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 今度の札幌への旅行で君とはもう逢え
ない。行き先はまだはっきりきめていな
いが、支笏湖あたりで死のうかと思う。
 この湖を選ぶのに特別の理由はない。
ただ、北国で誰にも知られずに死にたい。
それと、あの湖は一度沈めば、二度と死
体はあがらない。私の腐り果てた体はあ
の湖底の樹々にとらえられて、永遠に消
えたほうがいい。
 すでに気付いていたかもしれないが、
私には病気があった。さまざまな骨が癌
で冒されている。正しい病名は多発性骨
髄腫である。私は自分がこの病気にかか
ったのを二年前から知っていた。
 この病気は現在の医学では治らない、
不治の病である。二、三の治療法はある
が、それは一時的に病勢を止めるだけで
治すものではない。皮肉なことだが私は
この病気について、これまで学会で何例
も報告し、研究もしてきている。私の余
命はあと三カ月である。現在、右大腿に
も来ているので、来月からは歩くことも
できなくなる。
(略)
 皆にはいろいろ迷惑をかけた。特に君
には悲しみしか与えていないように思う。
 だが、君の優しさを私は充分知ってい
た。知っていたのに、なぜ、と言われれ
ば一言もないが、私はいつもうしろから
死に追いかけられていた。
(略)
 いつ死ぬと、はっきりわかる死、それ
は誰よりも医者である私が一番よく知っ
ていた。どんな言い逃れも、気休めもな
い死がそこにあった。死は私にとっては
無でもゼロでもない。ましてや仏になる
ことや、霊が残ることでもない。なにも
ない、掌の上に乗った一握りの灰を吹き
飛ばせば、それで消える。それだけのこ
とである。
(略)
 私はいま、関係した女性達のすべてが、
私の種を宿し、胎むことを願っている。
できるかぎり、この世に自分の子供が増
えることを願っている。奇妙なことだが
死が近づくにつれて、私のこの願いは一
層強くなってきた。
 もしかして、私がこんな破廉恥なこと
を願うのは、死がくれば私は見事になに
も無くなることを知っているからなのか
もしれない。
 いまここに君に最後の便りを書くのは、
第一には君に悲しみを与えすぎたことへ
の詫びを言いたかったからである。第二
には、数ある女性のなかで、君だけはあ
るいは私の死後も、子供を産んでくれる
かもしれないと思ったからである。
(略)
 これから君に羽田で逢う。一時間後に
一緒に飛行機に乗る人にこんなことを書
くのはおかしい。でも君はこれまで私に
素直に欺されてきた。だからいましばら
く私に欺されて、情事の最後の相手をつ
とめて欲しい。
              直江庸介
志村倫子さま
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さて、どうでしょうか。
50年以上前の作品とはいえ、男性読者
はともかく、かなりの女性読者は、直江
の独善的ともいえる考え方に嫌悪感を覚
えるのではないでしょうか。


ましてや、昨今は、女性の意識も考え方
も大きく変化をしています。
よく、この原作を宝塚で舞台化しようと
考えたものだと思います。


ただ、この原作は、単なる恋愛小説では
なく、「人は死とどう向き合うのか」が
中心テーマでしょう。


そのテーマに対する直江の、そして同じ
く医師である原作者の考えが上に掲げた
遺書の内容に凝縮されているように思わ
れます。


テーマ自体は、悪くはないんですが……。