妻が宝塚ファンで……。

ミュージカル観劇や日々の時事問題などについて綴ります。

劇団員は労働者か否かー宝塚「報告書」に欠けていた視点

今晩は、壽々(じゅじゅ)です。


ネットで面白い記事を見つけましたので、
ご紹介します。


弁護士ドットコムの記事で、笠置裕亮弁
護士という方が、宝塚歌劇団の調査報告
書についてコメントしています。
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宝塚「報告書」に欠けていた視点 劇団
員は労働者か否か…弁護士が読み解く


今回の報告書について、笠置裕亮弁護士
は「劇団員に過重な負荷がかかっていた
ことを認め、それを解消するための方策
が検討されている」点を評価する一方で、
「劇団員が労働者であることを正面から
認め、歌劇団が労働法令を遵守すること
を表明することが必要だった」と指摘す
る。笠置弁護士に詳しく聞いた。


「報告書は労働者性の判断を回避」


――調査報告書の内容について、笠置弁
  護士はどう評価していますか


私としては、劇団員の労働者性を認める
かどうかについて、最も注目をしていま
した。ところが、報告書は「本件事案が
発生した事実関係及び原因の調査をする
ことを主眼としているため」ということ
で、労働者性の判断を回避してしまいま
した。


これでは、歌劇団は劇団員にとって良好
な職場環境を作っていくため、労働法上
の義務を負わなくてよいということにな
ってしまい、労働基準監督署を初めとす
る監督官庁の監視機能も働かなくなると
いうことになります。果たして、長い伝
統のある歌劇団において、自主的な努力
のみによって職場環境の改善が可能なの
でしょうか。


劇団員に過重な負荷がかかっていたこと
を認め、それを解消するための方策が検
討されていることは評価できるものの、
真に実効性のある方策を打ち出すために
は、劇団員が労働者であることを正面か
ら認め、歌劇団が労働法令を遵守するこ
とを表明することが必要だったのではな
いかと考えます。


劇団員は「労働者」なのか?


――遺族側代理人は、宝塚歌劇団と女性
  が交わした契約書の内容からも「劇
  団と女性は実質的に労働契約だ」と
  指摘しています。笠置弁護士はどの
  ようにみていますか


契約書は業務委託(フリーランス)の関
係だということで整理されているようで
すが、報道されている情報によると、劇
団員は歌劇団からかなり強力な拘束を受
けているようです。そうだとすると、
務委託(フリーランス)の関係ではなく、
実態としては労働契約に当たるのではな
いかと考えられます。


労働者だと認められるためには、
(1)仕事の依頼・業務従事の指示等に
    対し、諾否の自由(断ってもよい
    自由)があるかどうか
(2)業務遂行上の指揮監督(会社が業
    務の具体的内容及び遂行方法を指
   示し、業務の進捗状況を把握、管
      理しているなどの実態)があるか
   どうか 
(3)勤務時間や勤務場所の拘束がある
    かどうか
(4)代替性(他人がその仕事を代わり
       にやってもよいこと)があるかど
    うか

といった要素が考慮されます。


契約書によると、本業と言える舞台だけ
でなく、様々な媒体への出演が業務とし
て義務付けられているほか、定められた
日程での稽古への参加・技能の向上・容
姿の管理までもが義務付けられています。


業務内容の決定については、一切歌劇団
の方針に従い、異議を申し立てないこと
についても誓約させられています。舞台
等、歌劇団が出演を求めた企画への欠席
をすると、出演料を減額するという条項
も含まれています。芸名やパブリシティ
ー権の権利は歌劇団の専権下にあるとも
されています。


このような契約内容を見ると、かなり拘
束性の強い契約だと言えます。


――歌劇団では5年目までは労働契約を
  締結し、6年目以降は業務委託とな
  っています。6年目も労働者性が認
  められる余地はありますか?


時間的・場所的な拘束の強い労働実態が
あったことも併せて考えると、(1)~
(4)はいずれも満たされると思われます。
報酬の決められ方の実態が現時点で不明
であるため、確定的なことは申し上げら
れませんが、5年目の劇団員までは労働契
約が締結されていることからしても、6年
目以降の劇団員についても労働者性が認
められる可能性は高いと思われます。


本件のような被害を防ぐためには、業務
委託(フリーランス)である以上、健康
管理は劇団員任せとするのではなく、正
面から劇団員の労働者性を認め、労働法
にしたがって歌劇団が責任をもって劇団
員の健康管理をしていくほかないものと
思われます。


●「ハラスメントに関する調査内容・結
 果にも疑問」


――遺族側が訴えている上級生からのい
  じめ、パワハラについての報告書で
  の言及についてはどうでしょうか


ハラスメントに関する調査内容・結果に
も疑問があります。


上級生とのトラブルについて、報告書は
「上級生から故人がいじめを受けていた
かどうか」という問題だと整理し、ヘア
アイロン事件のあった前月の両者のやり
とりを根拠にいじめはなかったと結論付
けています。


確かに、加害者が被害者に対し、長期間
悪感情を持ち続け、嫌がらせを執拗に継
続するということが往々にしてある種類
のいじめなのであれば、事件から相当前
からの出来事から調査し、そこで友好的
なやりとりがあれば、そうではないとい
う結論になるのかもしれません。


しかし、いじめの加害者が被害者に対し
て一貫して加害行為を取り続けるという
ことはむしろ珍しいのではないでしょう
か。また、ハラスメントの場合には、少
し前には人間関係に特段問題がなかった
にもかかわらず、さしたる原因もないの
に突然加害者が激高して加害行為が行わ
れるということも珍しくありません。


報告書の問題の整理の仕方は、いじめや
ハラスメントの実態に見られる経験則に
反しており、自然と否定的な帰結になっ
てしまいやすいものになってしまってい
るのではないかと思います。


報告書の内、公表されているものではマ
スキングされてしまっている箇所も多い
ため、文脈がたどりづらいものがありま
すが、報告書の中で関係者間の供述が分
かれている部分でも、なぜ故人の2021年
10月当時の休演理由が加害者との人間関
係の悩みでなかったと結論付けられてい
るのかが判然としません。


ただ、故人の当時の悩みは、同僚との人
間関係だったことには間違いないのであ
って、この段階で何らかの対策が講じら
れていれば、違った帰結になった可能性
があります。


また、劇団内には下級生が上級生に指導
をお願いするにあたり、舞台稽古1日目
に「お声がけ」というものをしなければ
ならない慣習があったようです。亡くな
る直前の時期に、過密なスケジュールの
中で、故人が適切なタイミングでお声が
けができなかったという出来事がありま
した。これにより、故人は厳しい指導を
受けるに至っています。


この点、報告書は、過密なスケジュール
に問題があったことは認める一方で、お
声がけができていなかったことで叱責が
厳しいものとなったこともやむを得ない
と判断し、指導の態様や手段が相当性を
欠くものではないと結論付けています。
この出来事が故人にとって一定のストレ
スになっていたことは認めつつも、ハラ
スメントではないと結論付けているとい
うわけです。


しかし、そもそも下級生が上級生に指導
をお願いする際に、「お声がけ」という
儀式を履行しなければならないこと自体、
客観的に見ておかしいのではないでしょ
うか。ましてや、過密なスケジュールで
あったわけですから、そのような儀式を
踏まえることができなかったという事情
も認められます。それにもかかわらず、
厳しい指導が加えられてしまっているわ
けですから、客観的に見れば合理性がな
い指導だと判断すべきではなかったでし
ょうか。


●「歌劇団が劇団員の健康に配慮してい
 ないという批判を免れない」


――歌劇団側の対応には問題があったと
  言えるのでしょうか


もっとも疑問なのが、宙組内で、被害者
である(可能性のある)故人と加害者で
ある(可能性のある)上級生を交えた全
体の話し合いが行われていることです。


トラブルの事実関係が判明していない段
階で、立場の異なる者同士をともに出席
させて話し合いをさせるという対応は、
被害者にとっては率直に被害申告ができ
ないという状況を生み出しかねず、かえ
って被害者の心理的負荷になることは、
常識的に考えても明らかではないでしょ
うか。


歌劇団は故人に対し、「話したくないな
ら話さなくて良いから話し合いを行って
もいいか」とまで述べて了承を取ったよ
うですが、被害者側の了承が取れている
から誤った対応をしてよいということに
はなりません。


このような対応を取ること自体、歌劇団
が劇団員の健康に配慮していないという
批判を免れないように思います。現に、
話し合いに出席された直後から、故人は
体調を崩されているようです。


報告書では、そもそも2023年2月4日に全
体の話し合いが行われたことについて何
ら問題視をしていないばかりか、話し合
いの場で故人が何も発言できていなかっ
たことに対して問題意識を持つ趣旨の下
級生らに供述に対し「仮に、前組長ら当
時の幹部が慎重に故人の意思を事前に確
認して話し合いを実施したという経緯を
下級生も知ったうえで話し合いの場に臨
んでいたとすれば、下級生が故人の沈黙
について受けた印象は全く違ったものに
なっていたと考えられる。」とまで述べ、
話し合いの実施を正当化してさえいます。


ここには、劇団員間でのハラスメントが
生じた場合の対応としてそもそも適切な
対応だったかという根源的な視点が欠落
していると考えます。これも、いじめが
あったかなかったというだけの問題に矮
小化してしまっているがゆえに生じた問
題ではないかと考えます。


過重労働問題をめぐる外部弁護士による
調査報告書が作成される事例が増加して
いるように思いますが、被害者側が知り
得なかった事情にまでも良く分析され、
根底的な原因からの改善提案が行われる
など、本当に内容が優れているものはご
く一部にとどまります。


本件でも、社会的な注目を集める事件で
あるだけに、視点の欠落が見られたり、
評価に疑問が残る部分が見られることに
ついては残念に思いました。
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さすがに弁護士ドットコムの記事だけあ
って、鋭い指摘だと思います。