妻が宝塚ファンで……。

ミュージカル観劇や日々の時事問題などについて綴ります。

花組公演『うたかたの恋』の名場面と名セリフ①

死の後まで愛によりて結ばれん。


今晩は、壽々(じゅじゅ)です。


あまりにも有名なマイヤーリンク事件。
したがって、ほとんどの観客はこの『う
たかたの恋』の結末を知っています。
しかも、作品の冒頭で、既にその場面が
出てきます。
その中で、いかに結末までの間の物語を
描くのか、演出家の手腕が問われます。


皇太子ルドルフがマリー男爵令嬢と出会
ってから、次第に互いの愛を深めていき、
最後には、相手なしでは生きていけなく
なるまでの過程。
次期オーストリア皇帝の座を巡って、宮
廷内で張り巡らされる陰謀。
そして、次第に追い詰められていく皇太
子ルドルフ。
これらをきちんと描いてこそ、最後の場
面が活きてきます。


ということで、今回は、脚本ー柴田侑宏
氏、潤色・演出ー小柳 奈穂子氏の花組公
演『うたかたの恋』のそういった場面・
セリフを取り上げてみたいと思います。
なお、セリフは映画館の暗闇でメモした
ので、判読不能な部分もあり、少し違う
かもしれませんが、ご容赦ください。


さて、冒頭の言葉は、皇太子ルドルフが
マリーに贈った指輪の裏側に刻まれた言
葉。(「死して後まで」というメモもあ
り、この時の言葉がどっちだったか分か
りませんが、まあ、どっちでもいいや)
この場面は、ルドルフがマリーを自室に
初めて招いた場面で、二人は出会えた喜
びに満ちている幸せな場面です。
ですから、普通に捉えれば、これは、ル
ドルフからマリーに対する愛のメッセー
ジなのですが、「死の後」という不吉と
も思える言葉が入っていて、これが最後
の二人の死の場面の伏線になっています。


また、マリーがルドルフの自室を見て廻
る時に、机の上に髑髏と拳銃が置かれて
いるのに驚きます。
拳銃は、そのまま、直接マイヤーリンク
に結びつきますが、髑髏の方は、マリー
がルドルフに「墓掘りの場面のハムレッ
トにそっくり」と言います。
ここで、「ハムレット」を読んだことも
演劇などで観たこともない人は(私も含
めて)?となります。


この場面の少し前の場面で、ブルク劇場
の場面があるのですが、そこで上演され
ている演目がバレエ「ハムレット」です。
そこで、ハムレットが髑髏を手にして、
踊るシーンがあります。これが、墓掘り
の場面です。公演プログラムにも髑髏を
手にしている柚香光さんが載っています。


その部分を原作から引用します。
「道化」が墓掘り、「ホレイショー」は、
ハムレットの腹心の友人です。
==================
道化 なぜって旦那、奴の皮はなめされ
てっから商売柄、長いこと水をはじくん
だ。水ってやつは、誰彼なく死体を腐ら
せる。そらまた髑髏が一つ。こいつは、
23年間土んなかに寝ていたんだ。
ハムレット 誰のかね?
道化 とんでもねえ気違い野郎よ。誰だ
と思うね?
ハムレット いや、分からない。
道化 くたばれこの気違い野郎め、ぶっ
かけやがったんだ杯ごと俺の頭にライン
酒を。こいつは旦那、こいつは旦那、ヨ
リックの髑髏だ、王様お抱えの道化。
ハムレット これが?
道化 ちげえねえ。
ハムレット どれ。ああ哀れヨリック、
よく覚えているよ ホレイショー、冗談
ばかり言っていた。途方もないことを、
しょっちゅう背中におぶってもらってい
たよ。それが、どうだぞっとするなあ考
えただけで、吐き気を催すよ。ここに唇
がついていて、何度チューしたかしれな
い。あのふざけはどこに行った?悪ふざ
けは?あの歌は?立て続けの陽気な歌で
食卓が沸き立っていたな?いまはもう誰
も笑ってくれないか?顎が落ちたか?さ
あご婦人の部屋に行って、言ってやれ、
1インチの厚さに化粧しても、いずれこん
な面構えになるって。そう言って笑わせ
ろ。ホレイショーひとつ教えてくれ。
ホレ―ショー 何でしょうか殿下?
ハムレット アレキサンダー大王もこん
な風かな土のなかでは?
ホレイショー でしょう。
ハムレット それでこんなに臭い?ぷう
っ。
ホレイショー でしょう、殿下。
ハムレット どんなものに変えられるか
知れたもんじゃないなホレイショー。想
像して辿って行けばアレキサンダー大王
の立派な遺骸も、樽の栓にされるってこ
ともあるんじゃないか。
ホレイショー いくら何でもそれは。考
え過ぎでは。 
ハムレット そんなことはない、冗談で
なく。辿っていけば控えめに見ても、そ
こらあたりに落ち着く。こんな具合。ア
レキサンダーが死ぬ。アレキサンダーが
埋葬される。アレキサンダーが塵に還る。
塵は土になる。土から粘土をつくる、そ
の粘土(大王のなれの果て)からビール
樽の栓がつくられてもおかしくないだろ
う?皇帝シーザーも、死んで粘土に還り、
隙間風を防ぐ穴塞ぎになるかもしれない。
ああ、土塊が、かつて世界を震撼させた
者が、壁の破れ目を埋め、木枯らしの風
除けにされる。しっ、しっ、脇へ。王が
来た。
==================
この場面でしょう。
この後、オフィーリアの葬列がやってき
て、ハムレットは、オフィーリアの死を
知ります。


したがって、この髑髏もどんな偉大な人
間も死ねば同じ髑髏になる、オーストリ
ア帝国の皇位継承者である自分も、とい
う虚しさを意味していて、マイヤーリン
クに繋がっているのだと思われます。


なお、「ハムレット」のバレエの中で、
ハムレットがオフィーリアに向かって、
右手を伸ばし指さすのは、「尼寺へ行け」
の場面だと思います。これもマリーの修
道院行きの話と重なります。
(「尼寺」はむしろ「修道院」と訳すの
が近いそうです)


また、ルドルフの自室の場面で、ルドル
フは、マイヤーリンクに山荘があること、
そのマイヤーリンクの素晴らしさを語り、
いつか、マイヤーリンクにマリーを連れ
て行くことを約束します。


つまり、このルドルフとマリーが初めて
ルドルフの自室で会う場面は、上で述べ
たように、本来であれば、初めて、二人
きりで出会えた幸せと喜びで満ちた場面
であるはずが、死に対する不吉な空気を
漂わせて、そのまま、二人のマイヤーリ
ンクでの運命へ導く伏線の場面になって
いるのです。


ということで、②に続きます。