ショパンが最期にリストに伝えたかったこととは?花組公演『巡礼の年』。ー何のために音楽を?
今晩は、壽々(じゅじゅ)です。
(ネタバレあります)
何度観ても?だった『巡礼の年』の最後
から3番目のマリーとリストが出会う場面
と最後から2番目のリストがサンドとショ
パンに出会う場面。
今回は、その最後から2番目の場面のリス
トがサンドとショパンに出会う場面につい
て、私のメモに基づいて、ショパンは最期
にリストに何を伝えたかったのかをショパ
ンとリストの対話を通して書こうと思いま
す。
なお、セリフが聞き取りづらかったり、
自分のメモの字が判読不能だったりする
ので、まあ、大体こんな感じでした、と
いうことで、ご容赦ください。
==================
(公演プログラムより)
S-16 魂の彷徨-2/ショパンの死
リストにとって、その才能において常に
コンプレックスを与える存在であり続け
た盟友ショパンとの別れが迫っていた……。
==================
サンド :やっと来た。王様のお帰りね。
リスト :どうしてここにいる?それと
その恰好は何だ?
サンド :何から答えていいものやら。
ずっと待っていたのよ、私た
ち。
リスト :私たち?
サンド :会いに来たんでしょ、フレデ
リックに。いらっしゃい。
リスト :どこなんだ、ここは?
サンド :分からない?
リスト :分からないから、訊いている。
サンド :言ってみれば、あなたの物語
の中。
リスト :物語?
サンド :彷徨う魂の物語。
リスト :魂が彷徨う?君が書いたのか?
サンド :何言ってるの。これは、あな
たの物語でしょ。
リスト :俺の物語?
サンド :それで見つかった?
リスト :分からない。何を探していた
のかも。
サンド :簡単よ。そこにあるわ、きっ
と。
リスト :何が?
サンド :答えが。
ショパン:やあ、立派になったな。すご
いじゃないか。
リスト :こんなもの、今じゃ何の価値
もない。
ショパン:でも、欲しかったんだろ?
欲しかったものを手に入れる
なんて立派なもんだ。
リスト :皮肉か?
ショパン:皮肉なもんか。
リスト :なら、本心か?
ああ、そうだ。俺は欲しかっ
たんだ。俺が何者かを示して
くれる何かをな。
ショパン:認めたな。それでいい。何も
悪くないと言った。
リスト :どうして?
ショパン:どうしてかな。お前は常に自
分を否定する。
リスト :分かるはずがないんだ、お前
に。
ショパン:俺は分かりたかった、死ぬ前
に。
リスト :死ぬ前?
ショパン:俺はもうすぐ死ぬ。
リスト :お前が死ぬ?お前が?俺じゃ
なくてお前が?どうして?
ショパン:分からない。
リスト :いや、分かっている。
俺は、ずっとずっと背中を追
いかけてきた。いつもいつも。
ショパン:お前が。
リスト :聞いてくれ最後まで。
ショパン:どうやら俺の身を按じてくれ
てるわけではなさそうだな。
リスト :そうか、そういうことか。
結局、天はお前を選んだ。
自分の方だって言いたいわけ
か。
ショパン:いい加減にしろ!
一体、いつまで他人の物差し
で自分を測る?他人の絵筆で
自分を描こうとする?
リスト :絵筆?
ショパン:王様に認められた?貴族にな
れた?結構なことだ。
だが、お前自身はどうなんだ?
リスト :俺自身?
ショパン:ああ、お前自身を認めてやれ
ているか?
それができなきゃ、俺の後を
追ったって、夭折した天才た
ちと寿命比べしたって、どう
にもならない。
リスト :(この部分聞きとれませんで
した)
ショパン:違う!お前を認めていないの
は他の誰でもない、お前自身
だってことになぜ気づかない?
もう、ずっと前からお前自身
の筆で立派にお前自身を描く
ことができるのに。
何故それを認めない?
もう一度、訊かせてくれ、何
のために音楽を?
リスト :何のために音楽を……。
ショパン:もがいて、あがいて、必死に
生きて、何かが手に入った気
がしてもそれが何だ?
死んだらおしまいだ。
リスト :フレデリック
ショパン:生きたかったさ、俺だって。
分かるだろ?
生きろ、フランツ。生きて、
生きて、生き抜くんだ。
その命を使って、お前にでき
ることを。
リスト :それは何だ?教えてくれ。
ショパン:俺に訊くのはお門違いだ。
リスト :フレデリック
ショパン:もう時間だ。
この子を連れていけ。
リスト :誰だ?
ショパン:お前の中のお前。かつてのお
前が見限ったお前。お前が見
捨てたお前自身だよ。
子供の頃からここにいたお前
自身。この子に訊いてみろ。
分からなくたって大丈夫。
お前には時間がある。
お別れだ、フランツ。
サンド :行ってしまったのね。
まさかこのためにフランツを?
友達想いにもほどがあるわ。
==================
この後、最後の場面で、マリーは修道院
で子供たちに音楽を教えているリストに
再会します。
「何のために音楽を?」
このショパンの問いに対してリストが
出した答えがこれだったのでしょう。
なお、蛇足ですが、この場面を含め、こ
の『巡礼の年』という作品は、生田大和
先生の創作部分が結構入っています。
例えば、『巡礼の年』では、パリの音楽
院にリストが入学できなかったのは、リ
ストよりも優秀な生徒がいるため、不合
格になった、とされていますが、リスト
が入学できなかったのは、リストが外国
人であったためです。
パリに行く前に、リストは、ウィーン音
楽院で、カール・チェルニーとアントニ
オ・サリエリ(モーツァルトに出てくる
サリエリです)に師事していますし、ベ
ートーヴェンからその演奏を賞賛されて
いるほどですから、リストは、努力の人
でもありましたが、やはり、ショパンと
並ぶ天才だったのでしょう。
前回の記事です。(↓)