妻が宝塚ファンで……。

ミュージカル観劇や日々の時事問題などについて綴ります。

雪組公演『蒼穹の昴』キャスト別感想③(西太后・李鴻章)

今晩は、壽々(じゅじゅ)です。


今回は、キャスト別の感想の3回目です。


まず、専科の一樹千尋さん演じる西太后に
ついてです。


西太后役を誰がやるのかについて、いろい
ろと憶測がでましたが(私は、京三紗さん
でした)、まさかの 一樹千尋さん。


ただ、舞台を観ると、まさしく、一樹千尋
さんが西太后にぴったり嵌まっています。
西太后の貫禄と威厳に満ちた張りのある声
は、やはり、男役ならではのものでしょう。
月組公演『桜嵐記』の後醍醐天皇は、迫力
ありましたからね。


さて、西太后というと、清朝末期において
独裁政治を行い、清朝滅亡の原因ともなっ
た女傑というイメージが強いですが、この
作品では少し違います。


西太后は、物語の初めの方では、汚職で追
放されていた栄禄(悠真倫)を皇帝である
光緒帝(縣千)に断りもなく都に戻したり、
京劇の演目に文句を付けたり、光緒帝の存
在を無視して我儘勝手な振る舞いをしてい
ます。


その一方で、西太后は幼くして皇帝の地位
に就いた甥である光緒帝をこよなく愛して
いて、光緒帝に重い責任を背負わせたくな
いがために、自分が、摂政となって政を執
り行っているのでした。その光緒帝も西太
后を母のように慕い、敬います。


しかし、西太后のやり方はもはや時代遅れ
になっていて、清国は列強諸外国(日本も
含まれます)の餌食となり、腐敗・汚職も
進んでいます。しかも、西太后の取り巻き
は、自己の保身と私利私欲の事しか考えて
いない栄禄や太監の李蓮英(透真かずき)
のような連中ばかり。


これを憂う楊喜楨(夏美よう)ら改革派は、
権力を西太后から光緒帝の手に戻し、清国
を改革して列強諸外国から守ろうとします。


西太后と光緒帝の直接関与しないところで
進んでいく守旧派と改革派の対立は、やが
て悲劇を招きます。


光緒帝と改革派は西太后に対し、革命を起
こそうとしますが、その試みは失敗し、光
緒帝は南海の孤島に幽閉されてしまいます。


頤和園で李春児に子供の頃に頤和園の湖で
村の子供たちと泳いだことを思い出して話
す西太后は、限りなく優しい顔つきです。


厳しい為政者としての顔と光緒帝のことを
心から心配する顔の二つの顔を演じ分けて、
さすがに専科の一樹千尋さん、見事な演技
力です。


さて、次は、凪七瑠海さん演じる李鴻章で
す。


凪七瑠海さんは、最初、西太后役ではない
かと言われていましたが、さすがに老け過
ぎですね。
まあ、李鴻章でも老け役ではありますが……。
どっちが年上かと言うと、李鴻章の方が12
歳年上です。
舞台では、西太后が老け過ぎ、李鴻章が若
過ぎです。


さて、李鴻章は天津に居て、軍隊も含めて
清国の近代化を推し進めようとしています。
梁文秀ら改革派は、皇帝の後ろ盾として天
津総督である李鴻章を擁立しようとして、
同志の王逸(一禾あお)を天津に送ります。


王逸は、李鴻章に会い、李鴻章に勧められ
て配下となります。


その李鴻章が王逸と会う前の仕事っぷりの
場面が凄いです。
部下に書類を持たせて一列に並ばせて、次
から次へと書類をチェックし、合格した書
類には筆で署名を、不合格の書類は撥ね退
けていきます。
これは、原作にもこう書かれています。
「右手は机に積み上げられた電報をめくっ
ており、左手は稟議書の山に伸びており、
口はというと、それとはちがう公文書の文
句を呟き続けている。」
その場面を舞台は少しユーモラスに描いて
います。


そして、初めて訪れた王逸にも気やすく会
い、その無礼とも思える質問にもきちんと
向き合って誠実に答える李鴻章の人柄と天
津総督で軍人としての威厳が、凪七瑠海さ
んによって見事に表現されます。


そのような李鴻章に光緒帝と楊喜楨は、日
本との間の戦争の総帥となることを託しま
す。


しかし、李鴻章の奮戦も虚しく清国は日本
に敗れ、李鴻章も失脚します。
この李鴻章率いる清国軍と日本軍の戦いが
ダンスで表現され、ちょっと不謹慎かもし
れませんが、格好いいです。
大体、宝塚のお芝居は、戦闘の場面はダン
スで表現されますよね。軍服好きですし。


その李鴻章の後を継いだのは、袁世凱(真
那春人)。梁文秀らの改革の成否の鍵を握
る人物で、 栄禄(悠真倫)側に寝返ります。


その栄禄と袁世凱が紫禁城の太和門前で、
李鴻章とバッタリ出会(でくわ)します。
栄禄らに忠君の若者らを殺されたことに憤
る李鴻章は、剣を抜いて栄禄の胸元に突き
付けます。
「自分には天命がある」と言い張る栄禄に
「ならば、この剣を押し込めばその天命と
やらはどうなる」と言う李鴻章。
栄禄は、李鴻章から逃げるように立ち去り
ます。
そして、李鴻章は袁世凱に向かっては「ど
この国の兵隊だ。わしはお前など知らぬ」
と言って立ち去ります。
胸がスッとする場面ですね。


凪七瑠海さん、格好良すぎでしょう。
星組全国ツアー主演というのもよく分かり
ます。
専科の今でも、別格、男役スターです。