妻が宝塚ファンで……。

ミュージカル観劇や日々の時事問題などについて綴ります。

花組公演『巡礼の年』の音くり寿さんと飛龍つかささん

今晩は、壽々(じゅじゅ)です。


今回の公演で退団される音くり寿さんと
飛龍つかささんの『巡礼の年』での役に
ついて、今までの記事ではあまり触れて
こなかったので、別途、取り上げること
にしました。


お二人ともさすがの演技力で、強烈なイ
ンパクトと存在感を与えてくれました。
いかにも俗物という感じで、この作品で
は、特権階級の貴族の代表という役割で
す。


まず、音くり寿さんの役は、リストのパ
トロンで愛人のラプリュナレド伯爵夫人
です。
気位が高く、独占欲が強くて、リストを
独り占めにしようとします。
リストが愛人のジョルジュ・サンドの許
に通っているのを察知して、リストに昨
夜はどこに行っていたのか、と問い詰め
ます。


この二人の会話。(宝塚HPより)
リスト:
「嬉しくないんですか、年若い愛人の成
功が。全部あなたの為でもある。」
ラプリュナレド伯爵夫人:
「代わりなんていくらでも作れるのよ。」
リスト:
「俺の代わりなんていない!」
ラプリュナレド伯爵夫人:
「フランツ!!」


冒頭のリストとジョルジュ・サンドのデ
ュエットで、二人は、「私たちを見下す
者たちを、いつか見返してやる」と野心
を顕わにします。


しかし、貴族たちパトロンの支援がない
と芸術家たちは、芸術活動を続けられな
いのも事実。
ロマン主義の芸術家たちは、共和主義運
動によって芸術活動が続けられなくなる
のではないかと怯えます。


リストの美貌と超絶技巧の演奏に歓声を
あげる貴族たちの中で自分を見失ってい
くリスト。そんなリストの心の葛藤を見
抜いたのは、マリー・ダグー伯爵夫人で
した。


マリー・ダグー伯爵夫人と対照的に描か
れるのが、ラビュルナレド伯爵夫人。
「パリ」の貴族社会を象徴する人物とし
て描かれます。
リストを束縛し、自分の所有物であるか
のように振る舞うラプリュナレド伯爵夫
人。
それが、リストをマリー・ダグー伯爵夫
人との駆け落ちに至らしめる一つの要因
にもなります。


リストの駆け落ちに怒ったラプリュナレ
ド伯爵夫人は、リストの代わりとして、
ピアノの名手タールベルクのパトロンに
なります。ただ、タールベルクの観客に
は、貴婦人たちの姿はなく、男ばかり。
「あなたの取り巻きは、何だかむさ苦し
いわね」と言うラプリュナレド伯爵夫人。


ジョルジュ・サンドの説得でウィーンへ
戻ったリストはラプリュナレド伯爵夫人
がリストの代わりにパトロンとなったタ
ールベルクと対決し、見事勝利します。


ということで、この作品の中で、ラプリ
ュナレド伯爵夫人の存在は大きく、重要
な役割を果たします。
そのラプリュナレド伯爵夫人を演じる音
くり寿さんの演技が本当に素晴らしいで
す。


一方の、マリー・ダグー伯爵夫人の夫、
ダグー伯爵を演じるのは、飛龍つかささ
ん。
いかにも、俗物感満載の男です。
最初に登場するのは、ル・ヴァイエ侯爵
夫人のサロン。
マリー・ダグー伯爵夫人を伴って、サロ
ンへやってくるのですが、この場面では、
大きな役割はありません。
ただ、マリーがこのサロンでリストの演
奏を聴き、その音楽評をダニエル・ステ
ルンというペンネームで新聞社に投稿し
たものをリストがショパンから見せられ
たことが、リストとマリーの駆け落ちへ
と繋がっていきます。


マリーが新聞社に投稿していることを知
ったダグー伯爵は、マリーの所へ怒鳴り
込み、新聞社には投稿記事を載せないよ
うに話したと告げます。


その場面の二人の会話。(宝塚HPより)
マリー:
「そんなにお怒りになるようなことじゃ
ありませんわ。」
ダグー伯爵:
「男の名前を騙ってジャーナリスト気取
り。こんなことは伯爵家の妻がするよう
な事じゃない!」
(略)
マリー:
「夜な夜な、愛人の所で過ごして帰らな
いあなたの事をもう夫だとは思えないわ。」


パリに自分の居場所なんかないと嘆くマ
リー。
そこへ、リストがやってきまて、二人は
パリを抜け出して、スイスのジュネーヴ
へと駆け落ちしてしまいます。
リストと違うのは、マリーの駆け落ちの
原因のすべてが夫のダグー伯爵にあるこ
とです。
ダグー伯爵は、リストがタールベルクと
対決するためにパリへ戻って来た時も、
マリーに怒りながらも何か未練があるよ
うな様子です。


自分は愛人を作って愛人の所へ通ってい
ながら、妻であるマリーの行動は厳しく
制限するというどこまでも身勝手な男。
伯爵という身分は別としても、何となく、
今でもこんなタイプの男は居そうな感じ
がします。
そんなダグー伯爵を、飛龍つかささんが
見事に演じていました。


音くり寿さんは、『元禄バロックロック』
の ツナヨシ役、『TOP HAT』の マッジ
役がまだ、強く印象として残っています。
飛龍つかささんは、『はいからさんが通
る』 の 牛五郎役が私には、やはり、強
い印象として残っています。


音くり寿さんも飛龍つかささんも今回の
作品での退団が本当に惜しまれます。