妻が宝塚ファンで……。

ミュージカル観劇や日々の時事問題などについて綴ります。

宝塚歌劇団の劇団生との「委託契約」は、一般のタレントの「業務委託契約」と、どこが違うのか?

今晩は、壽々(じゅじゅ)です。


他の方のブログを読んでいたら、どうも
勘違いをされているような記事を書いて
いたので、宝塚歌劇団が劇団生と締結す
る「委託契約」と一般のタレントが芸能
事務所と締結する「業務委託契約」との
違いについて、説明をしたいと思います。


タレントの場合は、芸能事務所と「業務
委託契約」を締結しますが、これは、
法の請負契約、委任契約または準委任
約に該当します。


それぞれ説明するとややこしいので、一
番分りやすい「請負契約」について説明
します。(結論に違いがないからです)


「請負契約」の民法の条文はこうです。
==================
第六百三十二条 請負は、当事者の一方
がある仕事を完成することを約し、相手
方がその仕事の結果に対してその報酬を
支払うことを約することによって、その
効力を生ずる。

==================
請負契約の代表的なものとして、建設業
者が請け負う建設工事請負契約がありま
す。


建設工事を建設業者が完成するという仕
事の結果に対して、注文者が建設業者に
報酬を支払うということになります。
(家を建てる場合を考えると分かりやす
いと思います)


タレントで言えば、映画やテレビ番組、
公演などに出演するという仕事の結果に
対して、タレントに報酬が支払われると
いうことです。


一方、会社員の場合のように、労働者と
して会社に雇用されている場合は、「雇
用契約」になります。


雇用契約は、民法623条に定義規定があ
ります。
==================
第六百二十三条 雇用は、当事者の一方
が相手方に対して労働に従事することを
約し、相手方がこれに対してその報酬を
与えることを約することによって、その
効力を生ずる。
==================
つまり、「雇用契約」は被用者が使用者
のために労働力を提供することによって
報酬を得るのに対し,「請負契約」は請
負人が注文者からの注文を完成するため
に労務を行うことによって報酬を得ると
いう違いがあります。


「雇用契約」は、仕事の完成という結果
に対して報酬を得るのではなく、使用者
の指揮監督下で仕事に従事することに対
して、報酬を得るということです。


両者の一番大きな違いは、「雇用契約」
の場合は、労働者は労働法によって保護
されるのに対し、「請負契約」の場合は、
請負人には、労働法の保護がない、とい
うことです。


例えば、労働基準法32条には、労働時間
について、次のような規定があります。
==================
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩
時間を除き一週間について四十時間を超
えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、

労働者に、休憩時間を除き一日について
八時間を超えて、労働させてはならない。
==================
労使間で協定を結べば、この労働時間を
超えて一定の限度まで労働させることが
できますが、協定がない場合は、この32
条に定める時間を超えて労働させること
はできないことになります。


また、「雇用契約」では、労働契約法5条
に基づき、使用者は労働者に対して、安
全配慮義務を負うとされています。
==================
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労
働者がその生命、身体等の安全を確保し
つつ労働することができるよう、必要な
配慮をするものとする。
==================
「生命、身体等の安全の確保」には、メ
ンタルヘルス対策も含まれます。


一方で、「請負契約」の場合は、このよ
うな労働法の保護はありません。


極端なことを言えば、1日24時間働いて
も構いませんし、自分の身は自分で守れ、
ということになります。(ただし、下請
先の従業員や派遣社員の場合はを除かれ
ますし、映画などに出演していて、怪我
をさせないというような安全配慮義務は、
当然あります)


「雇用契約」の場合は、使用者の指揮監
督下で労働の提供をし、労務の対償を支
払われるという「使用従属性」がありま
す。


タレントの場合は、芸能事務所の指揮監
督下で労働の提供をしている訳ではあり
ません。
従って、タレントの場合は、芸能事務所
とは、「雇用契約」ではなく、「業務委
託契約」を締結していることになります。


それでは、宝塚歌劇団と劇団生との場合
はどうでしょうか?


亡くなった劇団員の遺族側の代理人弁護
士は、記者会見でこう述べています。
==================
「契約内容を見れば使用従属関係があり、
実質的には労働契約と評価される」
==================
したがって、劇団側に安全配慮義務違反
があった、としているのです。


指揮監督下での労働であるかどうかの判
断基準として、「仕事の依頼、業務従事
の指示等に対する諾否の自由の有無」
あります。


宝塚歌劇団の場合は、劇団員がこの公演
には出たくないという自由はないでしょ
う。


一方、タレントの場合は、タレントは個
人事業主であり、芸能事務所とは対等の
関係にあります。


したがって、この公演には出たくないと
いう自由が一応、あることになります。


それでも、タレントの労働環境が過酷な
のは、芸能事務所との契約が「業務委託
契約」であって、労働法の保護がないか
らです。


宝塚歌劇団は、研5までは「雇用契約」
ですが、研6からは「委託契約」になり
ます。


したがって、研6以上は、タレントと同
じということになります。


宝塚歌劇団の劇団員が一般のタレントよ
りもいいように見えるのは、宝塚歌劇団
という組織の内部にいるからでしょう。


一般のタレントは、芸能事務所と業務委
託契約を結んでいても、組織の内部にい
る訳ではないので、不安定な立場に置か
れているということで、劇団生よりも劣
悪な環境にいるようにみえるのだと思い
ます。


宝塚歌劇団の劇団生もタレントも、「業
務委託契約」ということでは、一緒なの
で(研5までを除く)、労働環境が過酷
になるという点では、どちらも同じです。

ただ、実態は、代理人弁護士の言うよう
に、宝塚歌劇団と劇団生との契約は、
「雇用契約」であるということです。